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金沢地方裁判所 昭和37年(行)7号 判決 1964年3月27日

金沢市竪町九三番地

原告

砂田藤蔵

右訴訟代理人弁護士

北山八郎

市出羽町二番丁一番地

被告

金沢国税局長

松井静郎

指定代理人 上野国夫

鈴木茂

北河登

老田実人

浜田芳次郎

炭谷忠雄

北川伴次

右当事者間の昭和三七年(行)第七号所得税審査決定一部取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

原告訴訟代理人は「被告が原告に対してなした昭和三三年分所得税の審査決定額金一〇九、九九九円の内金九三、八〇〇円はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、

被告指定代理人らは、主文同旨の判決を求めた。

第二、当事者の主張

(請求原因)

一、原告は、昭和三三年分所得額(譲渡所得)を金三四九、〇〇〇円、所得控除額を金二三〇、四〇〇円、所得税額を金一五、二〇〇円として申告したろとこ、金沢税務署長は昭和三六年六月二六日付を以て所得額金一、二四九、〇〇〇円所得控除額金二三〇、四〇〇円、所得税額二一八、〇八〇円として更正処分をなした。原告は右更正処分に対し再調査請求したるところ、同税務署長は昭和三六年九月九日付を以て所得額金一、二二一、五〇〇円、所得控除額金二三〇、四〇〇円、所得税額金二一〇、〇〇〇円と再調査決定をなした。原告は同年一〇月九日被告金沢国税局長(以下「被告」という)に対し更正処分及び再調査決定を取り消されたい旨の審査請求書を提出したところ、被告から昭和三七年五月二六日付所得審査決定通知書を以て所得額(譲渡所得)金八一八、三五七円、所得控除額金二三〇、四〇〇円、所得税額金一〇九、〇〇〇円と審査決定した旨の通知を受けた。

二、しかしながら右審査決定は原告の譲渡物件の価額を金一、五〇〇、〇〇〇円として計算しているが、右は金一、二〇〇、〇〇〇円であつて、これが所得税額は前記申告のとおり金一五、二〇〇円であるから、本件審査決定額金一〇九、〇〇〇円の内右金額を超ゆる部分は違法であるから、その取消を求める。

三、仮りに右主張が理由がないとしても、本件審査決定は譲渡経費を五五、〇〇〇円としているが、譲渡経費は金二〇〇、〇〇〇円であるから、審査決定額中、これを看過して過大に決定した部分は違法であるからその取消を求める。

(被告の答弁及び主張)

請求原因中一、の事実は認めるが、二、三の事実は争う。

一、原告は、昭和三三年分所得税について、その所有の土地家屋(金沢市吉寺町一二番の六宅地二四坪五合四勺、同所家屋番号一九番の三木造瓦葺二階建居宅建坪二二坪一合一勺外二階一四坪八勺)を訴外才沢金蔵に譲渡価額金一、二〇〇、〇〇〇円で譲渡したとして、その譲渡所得額を金三四九、〇〇〇円に計算して別表一のとおり申告したのであるが、金沢税務署長は調査の結果、譲渡価額は金三、〇〇〇、〇〇〇円であると認め、その譲渡価額で計算すると譲渡価額で計算すると譲渡所得額は金一、二四九、〇〇〇円となるので、その旨更正した。原告は右更正処分に対し再調査請求をしたので、同税務署長が調査したところ、仲介手数料金五五、〇〇〇円が控除漏れになつていたので、譲渡所得額金一、二二一、五〇〇円に訂正する旨再調査決定をしたのであるが、原告から被告に対して更正処分及び再調査決定を取り消されたい旨審査請求がなされたので、被告は昭和三七年五月二六日付で総所得額金八一八、三五七円(内訳、譲渡所得金四七一、五〇一円不動産所得金一四、三八五円、営業所得金二三一、五七一、その他事業所得金一〇〇、八〇〇円)所得控除額金二三〇、四〇〇円、課税総所得金額金五八七、九〇〇円、所得税額金一〇九、〇〇〇円なる旨の審査決定をなしたのである。

譲渡所得についての原告、被告の計算内容を対比すると別表二、のとおりである。

そして被告は右審査決定においては、原告が昭和三六年一〇月九日に提出した審査請求書に譲渡価額金一、五〇〇、〇〇〇円であると記載されており、また売買代金一、五〇〇、〇〇〇円と記載してある本件売買契約書を指示していたので、この申立により譲渡価額を金一、五〇〇、〇〇〇円として譲渡所得金四七一、五〇一円を計算したのである。

二、しかしながら、原告の本件宅地家屋の譲渡価額の実際は金二、八五〇、〇〇〇円である。これに基き譲渡所得を計算すると次のとおり金一、一四六、五〇一円となるので、この譲渡所得だけでも原告の昭和三三年分の実際の所得金額は被告が決定した総所得金額を上回るのである。従つて原告の実際の所得金額の範囲でなした本件審査決定は適法である。

本件の実際の譲渡価額金二、八五〇、〇〇〇円による譲渡所得の算出方法は以下に述べるとおりである。

1 譲渡所得は、その年中の資産の譲渡による総収入金額から、当該資産の取得価額、設備費、改良費及び譲渡に関する経費を控除して計算することとなつているのであるが、実際に課税の対象となるのは、右により算出した金額から更に金一五〇、〇〇〇円を控除した金額の二分の一の金額である。(所得税法第九条第一項第八号、同条第一項本文)。そして本件宅地家屋の譲渡のように、昭和二七年一二月三一日以前に取得した非事業用資産の取得価額の計算は、資産再評価法第九条により、昭和二八年一月一日(同法第三条第一項の基準日)に再評価が行われたものとみなして再評価をし、その再評価額と昭和二七年一二月三一日以後に支出した設備費、改良費及び譲渡に関する経費の額との合計額(所得税法第一〇条の四第二項)から、建物等減価する資産については、右基準日以後譲渡までの当該資産の減価の価額を控除した金額によることとなる(同法第一〇条の五)。

2 以上のべたところを本件に適用して算出すると次式のとおりである。

<省略>

(ホ)譲渡経費 (チ)譲渡所得金額

2,850,000円-{(376,855円-24,858円)+55,000円}=2,443,003円

譲渡所得金額 (ヘ)特別控除額 (チ)課税される譲渡所得金額

<省略>

3 右(ロ)ないし(チ)の計算根拠は左のとおりである。

(ロ) 再評価額金三七六、八五五円について。本件宅地の再評価額は財産税評価額(四、四一七円)を四〇倍したる金一七六、六八〇円であり(資産再評価法第二一条第二項)。本件家屋の再評価額は財産税評価額(一一、七七五円)を一七倍したる金二〇〇、一七五円であり(同法第二五条第一項)、これを合計すると金三七六、八五五円となる。

なお、右宅地、家屋の財産税評価額は財産税法(昭和二一年法律第五二号)第二五条及び第二六条により賃貸価額(宅地八八円三四銭、家屋一五七円)(旧地租法第八条または旧家屋税法第六条に規定する賃貸価額をいう)に一定倍数(宅地五〇倍、家屋七五倍)を乗じて算出した金額である。

(ハ) 昭和二八・一・一以降譲渡時までの減価金二四、八五八円について。

非事業用の家屋のように使用や保存によつて減価する資産については、これと同種の事業用固定資産の耐用年数を一・五倍した年数を、その資産の耐用年数とし、定額法で譲渡時までの減価の価額の累計額を計算し、これを当初の取得価額から控除した金額をもつて譲渡の際の取得価額とする(所得税法第一〇条の五)。本件家屋については、大蔵省今で定められている同種の建物の耐用年数三〇年を一、五倍した四五年を、その耐用年数として、定額法により次のように計算した。

取得価額 残存価額(取得価額の10%相当額) 耐用年数45年の場合の定額法による償却率 1年分の償却額

(200,175円-20,017円)×0.023=4,143円

経過年数(自昭和28年至昭和33年) 譲渡時までの減価の価額

4,143円×6(年)=24,858

(ニ) 残存価額金三五一、九九七円について。

再評価額金三七六、八五五円から減価の価額の累計額金二四、八五八円を控除した金額が譲渡時の取得価額である。

(ホ) 譲渡経費について。譲渡人が支払つた仲介手数料である。

(ヘ) 乃至(チ)については前記二、1で述べたとおりである。

4 右譲渡所得金額(総所得金額)一、一四六、五〇一円に対する所得税額を計算すると次のとおり金一九一、二五〇円となる。

<省略>

三、仮りに原告の主張の通り譲渡経費は金二〇〇、〇〇〇円であるとして、これを収入金額から控除して譲渡所得を計算したとしても、次のとおり金一、〇四六、五〇一円となり、これを下回る金額を以つてした本件審査決定には、原告のために取消すべき瑕疵はないのである。

収入金額 再評価額 減価の累計 譲渡経費 譲渡所得金額

2,850,000円-(376,855円-24,858円)+55,000円+200,000円=2,243,000円

課税される譲渡所得金額

<省略>

(被告の主張に対する原告の認否)

別表二、の計算表は認める。

(証拠)

原告訴訟代理人は甲第一乃至第七号証を提出し、原告本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立は認めると述べ、被告指定代理人は、乙第一乃至第四号証、第五号証の一乃至五、第六号証を提出し、証人野村三郎、同才沢金蔵の各証言を援用し、甲第一号証の成立を認め、甲第二号証の成立は登記済の印影のみ認めその余は不知、甲第三乃至第七号証の成立はいずれも不知と述べた。

理由

被告が原告に対して昭和三七年五月二六日に、原告の昭和三三年分の所得税審査決定をして告知したこと、その内容が原告主張の通りであること、所得控除額が原告主張の通りであることはいずれも当事者間に争いがない。

そこで、被告は原告所有の土地家屋の譲渡価額は、実際には金二、八五〇、〇〇〇円であり、本件審査決定は右譲渡価額による所得税額を下廻る金額を以つてなされているから適法である旨主張するので、その当否を判断するに、成立に争いのない乙第三、第四号証、第五号証の二乃至五、第六号証、証人野村三郎同才沢金蔵の各証言を綜合すれば、原告は昭和三三年一〇月中に、その所有にかかる金沢市古寺町一二番の六宅地二四坪五合四勺、同所家屋番号一九番の三木造瓦葺二階建居宅建坪二二坪一合一勺外二階一四坪八勺を金二、八五〇、〇〇〇円で訴外才沢金蔵に売渡したことが認められ、これに反する成立に争いのない甲第一号証及び原告本人尋問の結果は措信できず、他には右認定を覆えすに足りる確証はない。

ところで譲渡所得については、その年中の資産の譲渡による総収入金額から当該資産の取得価額、設備費、改良費及び譲渡に関する経費を控除し、更に金一五〇、〇〇〇円を控除した金額の二分の一として算定される(所得税法第九条第一項第八号、同条第一項本文)。そして、本件宅地及び家屋は原告が昭和一八年八月八日に取得したものであることは前記乙第三、第四号証により認められるところ、当該譲渡資産が土地家屋等の資産であつて、昭和二七年一二月三一日以前に取得せられていたものである場合には、資産再評価法によつて昭和二八年一月一日(基準日)に再評価が行われたものとみなされる(資産再評価法第八条、第九条)。この結果、資産の譲渡がなされた場合の取得価額の計算は資産再評価法によつて在来の取得額が再評価され、その再評価額と昭和二七年一二月三一日以後に支出した設備費、改良費及び譲減に関する経費の額との合計額(所得税法第一〇条の四)から、建物等減価する資産については、基準日以後譲渡までの当該資産の減価の価額を控除した金額によることとなる(同法第一〇条の五)。この場合において再評価の計算の基礎となる在来の取得原価については、当該資産が財産税の調査時期(昭和二一年三月三日)以前に取得せられたものである場合には、この調査時期の財産税評価額を基礎にして再評価法に定められた一定倍数を乗じて右再評価額を算定することとなつている(資産再評価法第二一条、第二五条)。この財産税評価額は、財産税法第二五条、第二六条により賃貸価額に財産税評価基準による評価倍数を乗じて計算した価額である。

そして右に従い本件譲渡価額金二、八五〇、〇〇〇円について所得税額を算出すれば被告主張のとおり金一九一、二五〇円となることは計数上明らかである(計算の根拠となる基準額が被告主張のとおりであることは弁論の全趣旨に徹し認められる)ところ、原告は本件譲渡経費については、被告主張の金五五、〇〇〇円ではなくて金二〇〇、〇〇〇円であるから、本件審査決定には取り消さるべき瑕疵がある旨主張するが、原告主張の金二〇〇、〇〇〇円の譲渡経費をも加えてこれを前記認定の実際の譲渡価額から控除して譲渡所得を計算したとしても、被告の主張するように金一、〇四六、五〇一円となることは計数上明らかであるから、これを下廻る金八一八、三五七円を総所得額として所得税額を算出した本件審査決定には原告のためにこれを取消すべき瑕疵はなく、適法であるといわなければならい。

よつて原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田正武 裁判官 木村幸男 裁判官 戸塚正二)

別表一、(原告の金沢税務署長に対する確定申告書)

譲渡所得金額 三四九、〇〇〇円

所得控除額

社会保険料控除 三、三六〇円

生命保険料控除 二二、〇四〇円

扶養控除 一一五、〇〇〇円

基礎控除 九〇、〇〇〇円

計 二三〇、四〇〇円

課税総所得金額 一一八、六〇〇円

右に対する税額 一五、二〇〇円

別表二、(原告、被告の計算内容対比表)

<省略>

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